「男にも更年期がある」(2)
はら たいらさん
自分の体や心が思い通りにならないつらさは、決して楽しめるようなものではないですけど、その先の事を考えて人生を楽しむ方法を考えるくらいじゃないとダメですね。クヨクヨとしていることが一番よくないと思います」。
「僕が更年期だと気づいたのは、古い知り合いの女性編集者から ”はらさん、更年期じゃない?
“と言われて。お、これは面白いなって思ったんですね」
一般には、ほとんど認知されていない ”男性の更年期“ という発想を、すんなりと受け入れられるあたりに漫画家らしい柔軟性を感じさせるエピソードだ。
この編集者の一言から、はら氏はすぐに更年期について、さまざまな文献を調べはじめる。当然のように女性が対象となった本ばかりの中、自分の症状と比較しながら自己分析し、自分が
”男性の更年期“であるという確信を深めていく。
「日本では男の更年期というのが認知されていませんが、欧米では前からあったということもあって。自分なりに納得できる結論が更年期だったんです。
その当時は、精神的につらいし、体もだるいしね。実際、体調がよくないですから、掛かりつけの医者に何度も行って、脳波まで全部調べても
”過労 “という診断。それでは、どう対処すれば調子が戻るのかもよく分からない。とにかく
”つらい “の一言につきる状況で。だから、これがこのまま、ずーっと続くのかなと思ったら、すごく嫌だったんですよね。
でも更年期となれば、いずれは終わりが来るわけですから。ホッとしましたよ。何年もモヤモヤとした心で過ごしていたので、原因がハッキリして気が楽になりましたね」
そんな、はら氏の著書を読んで安心したという声が多く届いているという。現実に同じような状況に、悩んでいる男性も少なくないようだ。
はら氏が更年期という結論にいたった症状が出はじめたのは、50歳も目前の40代後半。それは突然にやってきた。それまでは、かなり無理をしても翌朝まで疲れが残ることがなかったというはら氏が、ある朝
”何か変だ “と思いはじめる。
「49歳くらいからでしょうか。はじめは、漫画のネタ探しのため、日課のように毎朝5紙読んでいた新聞に集中できなくなったんです。何度も読み返してみても、何も頭に入ってこない。そんな事は漫画家になって初めてで、なぜだか分からないという、原因不明のつらさがありましたね」
さらに具体的な症状として、AだるさB気力の低下C無関心D自己嫌悪E体力の低下Fめまいなどが、はら氏を次々と苦しめる。そして、何よりもつらかったのが、酒に弱くなったことだという。酒豪で通
る高知県の出身で、どんなに飲んでも乱れなかったのが、少しの量でも翌日に響く。少し酒を断っても体調が回復せず、おいしく飲めないのだ。
それでも一家の主として、仕事だけはハードスケジュールでこなしていたが、やがて愛用のペンを持つことまでが嫌になっていく。かつては、朝7時に起きて夕方までにキッチリと仕事をこなし、夜は飲みに出掛け、睡眠時間を削ってまで早朝野球に参加していた自分と、あまりのギャップに気は滅入るばかり。
「一番忙しかった平成4〜5年ころは、全国各地から呼ばれる講演会がぎっしり詰まっていて、空いているのは移動の日だけ。しかも本業の都合やTV出演で、無理にも東京に戻らなければならなかったりして。1カ月に200〜300ページ描いていた頃だから、移動の合間も必然的に漫画のアイデアを考える。そして夜には酒でしょう。これじゃ、誰だってぶっ倒れて入院しますよ」
実際はら氏は、平成5年の冬に講演先で突然倒れて入院している。日ごとに体調が悪くなるのを感じながらも、決して泣きごとなど言わない元来の生真面
目さで、3日ほどの休養だけで講演会を再開。しかし、1カ月足らずで再び救急車で運ばれ、この時ばかりは、これまでの生活を振り返る契機となったという。
更年期ということを自覚してから、はら氏の生活は少し変わった。まず仕事は、出版社に迷惑がかからないようにと徐々にセーブし、今では無理のないペースに保たれている。途中、アシスタントが郷里に帰ってから何でもひとりでこなすようになるが、かえってやり甲斐を感じるという。
「体調が悪くなってから、朝食をキッチリ食べるようになりましたね。食事のバランスは女房まかせですけど、ご飯に汁もの、アジの干物、卵がレギュラーで、それに3品くらい付けてもらって。昼は仕事がら不規則なのでパンなど軽いもの。夜は野菜を中心に、煮物などのおかずをいっぱい並べてもらいます。
量
は決められてますけど、晩酌が日課なのでおつまみに。そして最後にご飯とみそ汁。あと、40歳を過ぎて運動しなくなっていたので、よく歩くようにしました。朝昼晩と1日3回、忙しいときは2回ですけど。運動を意識して、ちょっと大股のウォーキングですね。ただの散歩だと、かえって疲れてダメなんですよ。
更年期という原因が分かってから、病院には行きません。検査の結果ではどこも悪くなかったわけですから、気にすることはないと。薬で治せるようなものではないんだろうと思ったんです。ただ、体によいという健康法は何でもやりましたね。今でも、ウコンなどの健康食品は5種類くらい続けています。最近は、だいぶ体調もよくなって、そろそろ更年期も終わりでしょう」
よく通る声で、穏やかに話してくれたはら氏は、どこかスッキリとした晴れやかな雰囲気が感じられる。最後に、更年期を過ごす得策を訪ねてみると、こんな言葉が返ってきた。
「経験として言えるのは、あまり気にしないことでしょう。気にするなといっても、症状は現れますから、どうしたって気になちゃいますよ。そんな時こそ気分転換が大切です。実際は僕自身もガックリきちゃって、そこまでの考えるパワーがなかったですよ。そのまま、呆然として過ごしたり。だけど、歩きに行くとか、タバコを吸うとか、そういうことも気分転換になる。ようするに考え方ですね。
更年期というのは、神様が休めといってるんですよ。ガリガリやるんじゃなくて、ちょっと楽にしなさいと。30代、40代の頃のまま続けていたら、もう今の僕はいない、死んでますよ。それまでは気にしていなかった健康について、考えるようになりましたし。だから、ぶっ倒れたのもいい経験です。何でも勉強になりますからね。病院ってのはこうなってるんだとか、看護婦さんも病院では白衣だけど、帰るときはずいぶん派手な格好だなとかね。漫画家ですからね、自然にそういう見方になっちゃうんですけど。
自分の体や心が思い通りにならないつらさは、決して楽しめるようなものではないですけど、その先の事を考えて人生を楽しむ方法を考えるくらいじゃないとダメですね。クヨクヨとしていることが一番よくないと思います」
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