心理療法
−人間の身体はフィジカルなものだけではない
気持ちをリラックスさせることで体の免疫機能を高め、ガンの治療効果を上げるのが心理療法である。心とガンを関係づけた「サイコオンコロジー(精神腫瘍学)」は、今や世界でも注目の的だ。「病は気から」という言葉には、どうやらある種の真実が隠されているようだ。
患者の精神状態がガン治療に大きく作用するというのは、実は昔から耳にした話である。余命を宣告された末期ガンの患者が、子供の結婚式を前に驚くべき回復を見せた。手術が難しいといわれた進行ガンが、仕事で大事なプロジェクトに参加しているうちに小さくなった……。まさに生命の奇跡とも呼びたいこれらの
ケースは、人生に目標をもつことで体の免疫機能が高まり、ガン細胞の増殖にストップをかけたと言ってもよいだろう。(免疫系の詳細について)
埼玉県川越市にある帯津三敬病院では、今から12年以上前にこの心の領域に注目。心理療法士による心理療法を積極的に取り入れ、現在では西洋医学、中国医学に継ぐ3つめの柱としてガン治療に効果
を発揮している。
では、帯津三敬病院で実際に行われている心理療法とは具体的にどんなものなのか。その種類と内容を簡単にまとめてみよう。
◆音楽療法 受動的音楽療法と能動的音楽療法の2種類がある。前者は好みの音楽や懐かしい音楽を聴くことによって気持ちを落ち着けたり昔を思い出してもらう。後者は歌ったり楽器を演奏したりすることで気持ちを発散。音楽療法は喜怒哀楽の感情の表出に役立つ。患者に痛みなどがある場合、症状を緩和させる働きがある。
◆イメージ療法
1970年代にアメリカのO・カール・サイモントン博士が提唱したものが有名。サイモントン療法は、リラックスした状態で自分の体の中でキラー細胞がガン細胞と戦い、やがてガン細胞が消滅していく様子を頭に思い描くもので、イメージ療法のバリエーションの一つ。
帯津三敬病院ではヒーリング(いやし)を主な目的に、大自然や霊的・神聖な力とのつながりのイメージを導入している。
◆カウンセリング
病気を含め、その人が抱えている悩みを聞き、心の重荷を取り去る(あるいは心の問題に気づかせる)手伝いをする。
心理療法というのは、手術や抗ガン剤などと違って、それ自体がガン細胞に対して影響を与えるものではない。体の免疫機能を高める、いわば補助的な役割を担う存在だ。
なぜ心理的なアプローチで、体の免疫力が高まるのだろうか。帯津三敬病院でイメージ療法を担当する心理療法士の小林清乃さんは理由をこう語る。
「イメージ療法を受けられた患者さんは、よく『いやされた』とおっしゃっています。治療中に眠ってしまう方もいらっしゃいますし、本当にリラックスされているようです。ストレスだらけの今の時代で、こうした深いリラクセーション状態に身をゆだねることは少ないのではないかと私は思います。ですから療法を受けることで心が安らかで落ち着いた状態になり、病気に対する不安や緊張から解放されて、人間が本来あるべき状態に体が整っていくのではないでしょうか。
カウンセリングもそうです。悩みと病気は関係ないと思われる方もいるようですが、患者さんが自分の問題に気づいて整理していくことは重要です。
自分の人生で解決するべき事柄を正確に見据え、それに対処していけば心のつかえが取れ、体の調子もよくなっていきます。悩みやストレスというのはその方の全体性にとってバランスを崩す要因。ちょうど、循環器系にトラブルを抱える人に、たばこやお酒を控えるようにアドバイスするのと同じです」
なるほど、痛みや悩みといったストレスが免疫機能の働きを弱めるというのは、今や医学界ではよく知られた事実である。それを考えると、心理的なアプローチが免疫機能を高め、ガン細胞の増殖を阻止するのに役立つのは納得できる話だ。
心理療法はそれだけでガンに劇的な効果を及ぼすものではない。ほかの療法と組み合わせた治療プランが必要だ。しかし、いったいどんな療法と組み合わせたらよいのか。
そもそも心理療法は、どんなガンにも効果
が期待できるのか。前出の小林さんに尋ねてみよう。
「療法の組み合わせは自由ですし、どんなガンの患者さんでも希望はあります。患者さんの性格によって心理療法が受けられないということもありません。集団で受ける心理療法は、ほかの患者さんのパワーを分けてもらえますし、よりパーソナルなケアが必要な場合には個人対象のものもあります」
現在、帯津三敬病院で心理療法を希望する患者は全体の6〜7割にも及ぶという。目に見えない、言わば観念的な治療法だが、その効果
は患者の数が証明していると言えるだろう。
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